福岡高等裁判所 昭和25年(う)1378号 判決 1950年11月28日
被告人
山口虎一
主文
原判決を破棄する。
本件を佐賀地方裁判所に差戻す。
理由
弁護人下尾栄の控訴趣旨第一点、原審の訴訟手続には法令の違反があるとの点について。
刑事訴訟法第二百九十一条第一項には検察官はまず起訴状を朗読しなければならない旨規定され刑事訴訟規則第四十四条には公判調書には次に掲げる事項、その他一切の訴訟手続を記載しなければならないとしその五に検察官か起訴状を朗読したことと規定し又刑事訴訟法第五十二条には、公判期日における訴訟手続で公判調書に記載されたものは、公判調書のみによつて、これを証明することが出来る旨規定されているので、若し公判調書に検察官が起訴状を朗読した旨の記載がない場合は、刑事訴訟法第三百七十九条の訴訟手続に法令の違反があつて、その違反が判決に影響を及ぼすことが明かである場合に該当するものと謂わねばならぬ。今本件記録を精査すると、原審第一回の公判調書には裁判官は被告人の人定訊問後直に被告人に対し、被告人に默秘権のあることや任意に陳述することを欲するならば陳述することができる、その陳述は利益不利益を問はず、裁判上証拠となるものであることを告げた上被告人及弁護人に対し被告事件について陳述することがあるか否かを尋ねたところ被告人は公訴事実の通り相違ない旨記載され裁判官の人定訊問後検察官が起訴状を朗読した旨の記載がない。さすれば、原審は検察官の起訴状の朗読なくして審理に入り訴訟手続に法令の違反があり、その違反は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。